ドイツ税務のアップデート2024年5月

  1. アーンアウト(Earn Out)対価の受取時課税
  2. 隠れた準備金の取り崩し(6%の利益割増率は適法)
  3. 短期雇用従業員の労働に関する社会保険免除
  4. 社用車の電子走行記録(ログブック)に関する変更履歴
  5. 求職費用の所得控除

  1. アーンアウト(Earn Out)対価の受取時課税

パートナーシップの株式を売却する際、クロージング時点における対価支払に加え、クロージング時点から一定期間内に、対象会社の業績指標等の目標達成度合いに応じて追加的な対価を支払うことがあります。連邦財政裁判所の最新の判決によると、アーンアウトと呼ばれるこのような追加対価の支払いは、売主が実際に対価を受け取ったときに初めて課税されるとされています。従って、遡及的であっても、売却年度の所得に含めることはできません(遡及効果なし)。

 本判決では、対象会社の買収後の利益や売上高に依存するこのような対価は、売主が受け取った時に初めて実現するものであるため、発生可能性や金額が未確定な偶発資産であり、実現時に認識すべきものであるとしています。従って、売却年度におけるキャピタル・ゲインの計算においてはこのような不確実性を考慮する必要はないことを意味しています。

注:アーンアウトの対価支払いは、受け取り時に後発的な事業所得として課税されます。株式の売却から数年後になることもあります。 

  1. 隠れた準備金の取り崩し(6%の利益割増率は適法)

 

バーデン・ヴュルテンベルク財務裁判所は、ドイツ所得税法(EStG)第6条bに基づく隠れた準備金が代替投資により取り崩された各年度について、低金利時代であっても6%の利益割増金を違憲としないとの判決を下しました。

背景 

 事業用資産を売却する場合、売却価格と取得価格または帳簿価格との差額から隠れた準備金が認識されることがあります。特定の固定資産(土地など)の場合、この準備金は売却した年度に直ちに課税する必要はなく、その後、一定の期間内(資産の種類によって異なる)に新たに購入した資産の取得原価に振り替えることができるとされています(EStG第6b条)。準備金が再投資資産に振り替えられることなく取り崩され、利益計上された場合は、準備金が計上されていた各会計年度について年6%の利益割増金が課されることとなります(EStG第6b条(7))。

留意点

 2021年、連邦憲法裁判所は、2019年以降の評価期間に対する準備金(および還付金)の利率として6%は高すぎるため違憲であるとの判決を下しています。一方で、いくつかの裁判所は、この判決は準備金利率以外の利子税(利子税、延滞税、加算税など)には適用されないとの判断を下しています。

  1. 短期雇用従業員の労働に関する社会保険免除

 

ある果樹栽培農家は、リンゴ農園とイチゴ農園で毎年、収穫作業員を入れ替え、イチゴ農園では短期雇用従業員として社会保険料免除の請求行っていました。このような社会保険料の削減スキームは、社会保険検査により違法と指摘され、ニーダーザクセン州ブレーメン地方社会裁判所によりその指摘を正当とする判決が下されました。

背景

 短期雇用者が社会保険料を免除されるためには2つの要件があります。一つ目は、臨時雇用であること、すなわち1暦年中に3カ月または70日を超えて雇用されていないことです。二つ目は、専門職でないことです(ドイツ社会保障法典IV第8条1項2号)。なお雇用期間については、複数の臨時雇用は合算して判定されます。また、雇用やサービスが従業員にとって経済的に重要な場合、雇用は存在するとみなされます。このため、社会保険事業者との衝突が度々発生しています。最近の事例では、ある果物栽培農家が巧妙な社会保険料の削減スキームで失敗することになりました。

事実

 ある果樹栽培農家は、リンゴ栽培農園で年間を通じて収穫補助者を雇用し、年間労働時予定間に基づく固定月給を支払い、社会保険料を負担していました。農家は5月から7月にかけて、自らが出資するイチゴ農園に収穫補助者を派遣しました。彼らはその間リンゴ農園での業務から解放されましたが、イチゴ農園での報酬は社会保険料負担なしの短期雇用とされていました。ドイツ年金保険の社会保険検査において、収穫補助者は専門職であるため、社会保険免除の第二要件を満たさないとして、短期雇用の性質が否定されました。結局、この果樹栽培農家は約58,000ユーロの社会保険料を支払うこととなったのです。

裁判所は、この果樹栽培農家の「社会保険料の削減スキーム」は、雇用契約を2つ以上に分割することが長期的に計画されたものであり、被雇用者の収入の全額が社会保険料の対象となることを回避することを目的に考案されたスキームであると強調しています。 

  1. 社用車の電子走行記録(ログブック)に関する変更履歴

 

社用車を私的に使用する者は、走行記録(ログブック)を作成し保存することで、課税対象となる私的利用の走行距離を証明することができ、その結果、1%方式による課税を免れることができます。社用車の私的利用が少ない場合、総走行距離が少ない場合、車両価格が高額な場合、もしくは既に償却済の場合などは、多くの場合においてログブックを作成する方が1%方式よりも有利となります。ただし、ログブック方式による申告は、ログブックが正しい場合にのみ税務署に認められます。そのためには、ログブックを適時に作成し、かつ、その後の変更が不可能な形式(製本された帳簿など)で保管しておかなければなりません。一方、ログブックをスマートフォンなどで電子的に保管するケースも増えています。GPSトラッカーやSIMカード付きの特殊なコネクターが使用されることもあり、このコネクターは車両のインターフェースに接続され、走行が自動的に記録されるようになっています。

連邦財政裁判所(BFH)は最近、コンピュータープログラムを使用して作成されたファイルは、入力されたデータのその後の変更が技術的に不可能であるか、少なくとも文書化されている場合にのみ、適切なログブック(クローズドフォーム)の要件を満たすとの判決を下しました。BFHの裁定によると、その後の変更がシステム管理者によってのみ開示されることでは不十分とされています。従って、電子的に作成されたログブックは、変更点を直接把握できるものでなければなりません。

注:アナログ式または電子的に作成されたログブックが認められなかった多くのケースでは、高額な納税が求められることになります。

  1. 求職費用の所得控除

 

求職活動には時間だけではなく、多額の費用が発生することがあります。求職活動を行っている人にとって、求職費用が所得控除の対象になることは有難いことです。求職活動(つまり将来の収入を獲得するための活動)に要した費用は、基本的にすべて所得関連費用として控除できます。控除対象となる求職費用には、応募資料の作成費、専門書購入費、求職セミナー参加費用、面接のための旅費や必要な宿泊費、飲食費、封筒代、郵便料金、証明書取得費用などが含まれます。ただし、雇用主(就職予定の雇用主)により費用の払い戻しがある場合は、払い戻し相当額は控除対象となる所得関連経費から減額されます。なお、求職費用に関する連邦雇用庁からの助成金も同様の扱いとなります。

留意点

 被雇用者の場合、求職費用が税額軽減効果を持つのは、(他のすべての所得関連費用と合わせて)現在適用されている必要経費定額基礎控除額の1,230ユーロを超える場合のみとなります。雇用関係がなく給与所得が発生していない場合は、所得関連費用全額が控除対象となります。求職費用は、既存の雇用関係中に発生したものや、就学プログラム中に発生したもの、その後に発生したかものにかかわらず、控除の対象となります。求職費用が発生した年に、収入を得ていない場合はいわゆる予定所得関連費用に該当することになります。なお、その求職活動が最終的に成功したかどうかは、求職費用の所得控除には無関係です。


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