ドイツ税務のアップデート2025年12月
- 税務申告:2026年が目前 ― 2021年分の所得税の還付申告は今すぐ提出を
- 電子請求書(Eインボイス)対応に関する新たなBMF通達案の概要
- 中小企業向けの特別償却制度
- 法人税・事業税における最低税負担制度は合憲
- GmbH持分売却後も取締役として勤務する場合の課税関係
1. 税務申告:2026年が目前 ― 2021年分の任意申告は今すぐ提出を
つい最近2025年が始まったばかりのように感じますが、気がつけば年末が目前に迫っています。
2021年分について申告義務がなく、かつ任意の税務申告も行っていない方は、早急に対応する必要があります。というのも、2021年分の税金還付は、2025年12月31日までに税務署へ申告書を提出しなければ失われてしまうからです。
この期限を過ぎてから、所得税法(EStG)第32d条第6項に基づく有利判定(Günstigerprüfung)を申請しても、残念ながら還付を受けることはできません。この点については、最近、連邦財政裁判所(BFH)も納税者側の主張を退けています。
任意申告における確定期限(時効)
税務署が税額を確定できるのは、**確定期限(Festsetzungsfrist)**がまだ経過していない場合に限られます。確定期限が過ぎると、税金を徴収する権利そのものが消滅するためです(租税通則法[AO]第47条)。
そのため、確定期限後に発行された課税通知は**違法(ただし無効ではありません)**となり、期限内に異議申立てを行えば争うことが可能です。
AO第169条第2項第2号により、確定期限は4年間と定められています。また、AO第170条第1項により、原則として税金が発生した年の年末から起算されます。
このため、2021年分の所得税は2025年12月31日をもって時効となります。
なお、課税通知書(またはAO第122a条に基づく電子通知)が、期限内に税務署から発送されていれば足りる点に注意が必要です(AO第169条第1項第1号)。
重要:
12月31日が土日である場合、期限は自動的に次の平日に繰り延べられます(AO第108条第3項)。1月1日は祝日であるため、実際の期限は翌年1月2日となります。
例1
12月31日の終了と同時に時効が成立します。税務署は12月30日に課税通知を郵送し、納税者マリーは翌年になってそれを受け取りました。
結論:
この場合、マリーに対する課税通知は有効です。実際に通知が届いた日が12月31日以降であっても問題にはなりません。
仮に通知が到達しなかった場合には、有効な行政処分は成立しませんが、その場合でも、税務署は翌年に新たな課税通知を出すことはできません。すでに時効が成立しているからです。
このような事情から、税務署は時効成立直前には、配達証明付き郵便(PZU)で通知を送付することが多くなっています。
期限直前に提出した税務申告の扱い
任意申告によって税金の還付を見込んでいる場合、確定期限を常に意識しておく必要があります。
2021年分の申告をまだ行っていない場合、還付請求権は2025年12月31日で時効となるため、早めの対応が不可欠です。
では、2025年12月31日当日に申告書を提出した場合はどうなるでしょうか。税務署が同日に課税通知を出すことは現実的に不可能です。この場合、時効が成立してしまうのでしょうか。
答えは「No」です。
AO第171条第3項など、確定期限の進行を停止させる規定が存在します。同条では次のように定められています。
「確定期限の満了前に課税申請がなされた場合、その申請については、異議を申し立てることができない状態で決定が下されるまで、確定期限は経過しない。」
つまり、2021年分の申告書を期限内に任意で提出した場合、それは課税申請とみなされ、税務署が課税通知を発行し、その通知が確定するまで時効は成立しません。
通常、異議申立期間が終了した時点で通知は確定します(異議申立てを行わなかった場合)。
例2
マリーは2025年12月20日に、2021年分の所得税申告書を任意で提出しました。見込まれる還付額は500ユーロです。
結論:
期限内に申告しているため、AO第171条第3項による時効停止が適用されます。
その結果、税務署は2026年以降であっても課税通知を発行しなければならず、時効を理由に拒否することはできません。
一方、2026年1月1日以降に提出していた場合には、2021年分はすでに時効となってしまいます。
救済策となる「申告義務」の存在
任意申告ではなく、申告義務がある場合には、確定期限の計算方法が大きく異なります。申告義務が生じるのは、たとえば次のような場合です。
- 利益所得、または源泉徴収されていないその他の所得が410ユーロを超える場合(例:賃貸収入)
- 配偶者の税区分がIII/VまたはV/IIIである場合
- 進行税率対象所得(Progressionseinkünfte)が410ユーロを超える場合
(AO第149条第1項、EStG第25条第3・4項、第48条)
重要:
申告義務がある場合、AO第170条第2項第1号により、確定期限は課税年度の年末ではなく、申告書を提出した年の年末から起算されます。
さらに、申告書を提出しなかった場合には、原則として確定期限は開始しません。その結果、税務署は何年経っても初回の課税通知を発行できてしまいます。
この不都合を防ぐため、同条では、遅くとも税金発生年の3年後の年末からは確定期限が開始すると定めています。
例3
マリーは2021年に25,000ユーロの事業所得があり、申告義務がありました。申告書は2023年に提出しました。
結論:
所得税は2021年12月31日に発生していますが、申告義務があったため、確定期限は2023年12月31日から開始します。
その結果、時効は2027年12月31日に成立します。
別のケース
マリーは、2021年分の申告書を現在まで提出していません。
結論:
確定期限は、税金発生年の3年後である2024年12月31日から開始します。
そのため、時効は2028年12月31日に成立します。
任意申告と有利判定申請(§32d EStG)は救済となるか
追加所得の少ない会社員は、多くの場合、申告義務がありません。そのため、2021年分については2025年12月31日で時効となります。
もっとも、多くの会社員は利息や配当などの資本所得を得ています。これらは通常、25%の源泉分離課税(Abgeltungsteuer)が適用され、源泉徴収により課税関係は完結します。
しかし、§32d第6項EStGに基づく有利判定申請を行うことで、総合課税の方が有利となり、税負担が軽減される場合があります。
また、§32d第4項EStGに基づく源泉徴収額の見直し申請も、貯蓄者控除が十分に考慮されていない場合や、外国税額控除が可能な場合には有効です。
ここで問題となるのは、有利判定申請だけで申告義務が発生し、確定期限の起算点が延長されるのかという点です。もしそうであれば、2021年分の確定期限は2028年12月31日となり、2025年以降でも申告が可能になります。
この点について、BFHは最近、税務当局の立場を支持する判断を下しました。
すなわち、確定期限経過後に申告書とともに提出された有利判定申請には、確定期限の開始を遅らせる効果はないと判断しています
(BFH判決:2025年5月14日、VI R 17/23)。
ただし、前向きな点もあります。
源泉徴収されていない課税所得の合計が410ユーロを超える場合には、AO第170条第2項第1号が適用されることをBFHは明確にしました。
これには、たとえば私的貸付による利息など、資本所得税が課されていない資本所得も含まれます。
例4
2021年分は原則として2025年12月31日に時効となります。
マリーは2026年になってから申告書を提出し、給与所得に加えて、私的貸付による利息500ユーロを申告しました。
結論:
利息収入が410ユーロを超えているため、申告義務が生じます。
確定期限は2025年ではなく、2028年12月31日まで延長されます。
そのため、2026年に提出された申告書も有効であり、課税通知および還付を受けることができます。
まとめ
2021年分について申告義務がなく、かつまだ任意申告を行っていない場合は、還付の可能性があるかどうかを必ず確認すべきです。特に次のような場合には、還付が生じることが多くあります。
- 必要経費(広告費)が1,230ユーロを超えている場合
- 職人サービスや家事関連サービスの税額控除を申請できる場合(§35a EStG)
- 2021年中に転職した、または初めて就職した場合
- 資本所得に対して銀行が源泉徴収した税金が、有利判定(§32d第6項EStG)により軽減できる場合
還付が見込まれるのであれば、2021年分の申告は一刻も早く提出してください。
そうしなければ、年末をもって還付請求権は時効により失われてしまいます。
2. 電子請求書(Eインボイス)対応に関する新たなBMF通達案の概要
電子請求書(Eインボイス)対応に関する新たなBMF通達案の概要
2025年1月1日から、経過措置を伴いながら、ドイツ国内の企業間取引(B2B)では電子請求書(Eインボイス)の使用が原則義務化されました。これに関する最初のBMF通達は2024年10月15日に公表されており、今回、その続編となる第2のBMF通達案が2025年6月25日に公表されました。
通達案のポイント
この通達案は、主に既存の付加価値税適用通達(UStAE)を、2024年10月のBMF通達内容に整合させることを目的としています。あわせて、実務上の細かな論点の整理や対応上の注意点も示されています。
ただし、本案は変更点のみを列挙した内容であるため、単独では理解が難しく、両BMF通達とUStAEを突き合わせて読む必要があります。
適用範囲と主な例外
電子請求書の義務は、通常の請求書だけでなく、自己請求方式(クレジットノート)や、リバースチャージ取引、農林業の平均税率課税、旅行業、差額課税取引などにも及びます。
請求書の受領者が小規模事業者や非課税事業者であっても、原則として義務は免れません。
一方で、250ユーロ以下の少額請求書、小規模事業者の請求書、旅客輸送の乗車券については、従来どおり電子請求書以外の形式も認められています。
実務上の重要ポイント
- 役務内容の記載
電子請求書の構造化データ部分だけで、提供内容が明確に確認できる必要があります。補足資料をPDFなどで添付することは可能ですが、リンクのみの記載は不可とされています。 - 請求書の訂正
電子請求書の訂正は、原則として同じく電子請求書の形式で行う必要があります。 - 保存義務
電子請求書は8年間保存が必要で、特に構造化データ部分は改変されない形で保存しなければなりません。ただし、GoBD対応システム外での保存であっても、直ちに違反とはされません。 - バリデーション(検証)の重視
必須記載事項が構造化データに正しく含まれていない場合、電子請求書ではあっても「適正な請求書」とは認められない点が強調されています。
今後の予定と評価
本通達案は、2025年夏にかけて業界団体から意見募集が行われ、最終版は2025年第4四半期に公表予定です。また、2025年7月にはGoBDも電子請求書対応に改正されています。
EU全体では、付加価値税制度のデジタル化は本来2030年代に本格化する予定でしたが、ドイツはこれを前倒しで導入しました。その結果、制度開始後も解釈が定まらない状況が続いている点については、実務上の混乱を招いているとの批判もあります。
3. 中小企業向けの特別償却制度
― 税務上のメリットを上手に活用する ―
特別償却制度は、中小企業の投資を後押しするための税制優遇措置です。通常の償却に加えて追加償却を行うことで、課税所得が減少し、結果として税負担の繰延べ効果が得られます。以下では、§7g第5項EStGに基づく特別償却の主な要件と活用方法を整理します。
特別償却の対象と要件
通常、減価償却の対象となる**有形の減価償却資産(固定資産)**は、耐用年数に応じて定額法または定率法で償却します。これとは別に、一定の要件を満たす場合には、追加で特別償却を行うことが可能です。
主な要件は以下のとおりです。
- 資産を取得または製造した年の前年度の利益が20万ユーロ以下であること
- 当該資産が、取得・製造年度およびその翌年度において、
国内の事業所で専ら又はほぼ専ら事業用として使用されること
(または賃貸されること)
償却額と柔軟な配分
特別償却額は、取得原価または製造原価の最大40%まで認められます。
大きな特徴は、この40%を取得・製造年度からその後4年間の計5年間に、自由に配分できる点です。
- 毎年必ず償却する必要はありません
- 40%の上限をすべて使い切る必要もありません
実務上のポイント
利益が多い年度に重点的に特別償却を行うことで、税負担の繰延べ効果を最大化できます。年度ごとの利益状況を踏まえた計画的な活用が重要です。
注意点
資産全体としては、償却できる総額は一度限りです。そのため、特別償却を行うと、将来の通常償却額はその分減少します。
- 定率法の場合:
特別償却により帳簿価額が下がるため、翌年以降の償却額は自動的に減少します。 - 定額法の場合:
優遇期間(5年)が終了した6年目以降に、残存簿価を残存耐用年数で再計算する必要があります(§7a第9項EStG)。
4. 法人税・事業税における最低税負担制度は合憲
― 破産により損失が使えなくなる場合でも ―
連邦憲法裁判所は、法人税および事業税における最低税負担制度(最低利益課税)について、憲法に適合するとの判断を示しました。これは、破産手続や法人の清算により繰越欠損金を将来利用できなくなる場合であっても同様です。
制度の背景
法人税では、繰越欠損金の利用に期間制限はありませんが、金額には上限があります。
- 各課税年度において、総所得1,000,000ユーロまでは全額控除可能
- これを超える部分については、超過額の60%までしか控除できません
(※2024~2027年の課税年度に限り、70%に引き上げ)
この制度は、法人税法§8第1項と所得税法§10d第2項に基づくものです。
事業税についても同様の最低課税制度があり、こちらは70%への一時的引上げはありません。
この結果、多額の繰越欠損金があっても、一定額の所得は課税対象として残る仕組みとなっています。
争点と審査の経緯
連邦財政裁判所(BFH)は、破産や清算により欠損金の相殺機会が完全に失われる場合にも、この最低課税が認められるのかに疑問を呈し、問題を連邦憲法裁判所に付託しました。
本件では、破産手続を経て解散したGmbHにおいて、繰越欠損金を最終的に使い切れなかったケースが対象となりました。これはいわゆる「欠損金の確定的消滅(デフィニティブ効果)」と呼ばれます。
連邦憲法裁判所の判断
裁判所は、所得課税は原則として納税者の担税力に応じて行われるべきであるとしつつも、
繰越欠損金が失われた結果、実質的に担税力に反する「実体課税」に近い状況が生じ得ること自体は認めました。
しかしながら、このような結果であっても、
- 国家の正当な財政目的
- 立法者に認められた一定の類型化・簡素化の裁量
を踏まえれば、制度は恣意的とはいえず、合憲であると判断しました。
まとめ
今回の決定により、最低利益課税は、破産や清算により損失が確定的に失われる場合でも有効であることが明確になりました。
したがって、欠損金が使えなくなること自体を理由に、最低課税制度を憲法違反として争うことは困難といえます。
5. GmbH持分売却後も取締役として勤務する場合の課税関係
― 売却益か給与所得か、BFHの判断が注目される ―
ドイツでは、GmbHの(共同)オーナーが会社の持分を売却した後も、一定期間、契約に基づいて取締役(Geschäftsführer)として会社に残るケースが広く見られます。このような取引では、売却代金の一部が将来の取締役業務の継続に条件付けられることがありますが、その場合、当該金額を税務上どのように扱うべきかが重要な論点となります。
具体的には、
- **持分売却による譲渡益(§17 EStG)**として課税されるのか
- それとも**取締役としての労務提供に対する給与所得(§19 EStG)**として課税されるのか
という点が問題となります。前者であれば税負担が相対的に軽くなる一方、後者に該当すると個人の高い限界税率が適用されるため、実務への影響は小さくありません。
この点について、現在、連邦財政裁判所(BFH)で審理が進められており、その判断が注目されています。これに先立ち、第一審にあたるケルン財務裁判所(FG Köln)は、給与所得に該当すると判断しました。
事案の概要
問題となった事案では、GmbHのオーナーが共同出資者とともに、自身の50%持分を第三者に売却しました。売却代金は、次の2つの要素から構成されていました。
- 持分譲渡と引き換えに確定的に支払われる固定額
- 両売主が少なくとも5年間、取締役として勤務することを条件に支払われる条件付金額
この条件付金額については、取締役を期間満了前に退任した場合、すでに受領した金額を返還する義務が明確に定められていました。
税務当局と納税者の見解
税務当局は、この条件付金額について、持分の売却そのものに対する対価ではなく、取締役として会社にとどまり業務を行うことへの報酬であると評価しました。そのため、この金額は給与所得として課税されるべきであり、結果として高い限界税率が適用されると判断しました。
これに対し、売主である元オーナーは、当該金額も持分売却と一体の対価であり、所得税法第17条(§17 EStG)に基づく持分譲渡益として扱うべきだと主張しました。
ケルン財務裁判所の判断
FG Kölnは、税務当局の見解を支持しました。裁判所は、問題となった金額が、
- 法的にも実質的にも取締役業務の継続と密接に結び付けられていたこと
- 取締役を途中で辞任した場合には、返還義務が課されていたこと
を重視しています。これらの事情から、当該金額の対価は持分譲渡ではなく、取締役としての労務提供にあると評価するのが相当であり、給与所得として課税すべきであると判断しました(FG Köln、2024年12月4日判決、12 K 1271/23)。
BFHでの審理と実務上の対応
本判決に対し、売主は不服としてBFHに上告しており、事件番号はIX R 1/25です。今後、BFHが「持分売却の対価」と「役務提供に対する報酬」との線引きについて、どのような基準を示すのかが注目されます。
本件と類似した取引についてすでに課税を受けている場合には、
- 税務処分に対して異議申立てを行い
- 本BFH係属事件を根拠として
- 税務通則法§363第2項第2文AOに基づき、**手続の停止(Ruhen des Verfahrens)**を求めるといった対応を検討する余地があります。
BFHの判断が出るまでの間、慎重な対応が求められるテーマといえるでしょう。
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